2024年10月9日 10:52 UTC(日本時間23:52 JST)、Hera探査機はSpaceX社のFalcon 9ロケットに搭載され、米国ケープカナベラル宇宙軍基地から打ち上げられました。ここでは、ESA主催のHera打上げイベントの様子をご紹介します。
TIRIはCold launch(電源オフの状態での打ち上げ)のため、打上直後にHera-Japanが実施する運用はありません。TIRIは打上の3日後に初期運用が予定されており、機器の電源を投入して所定の動作をするか確認した後に、直ぐに離れ行く月・地球撮像を実施します。
打上げ前日(現地時間10/6)の午前中、小雨の降るフロリダ・ココアビーチのホテルにてHeraサイエンス会合が開催されました。Heraサイエンスワーキンググループ(WG)は4つのWG(WG1: Impact Modeling, WG2: Ground Based Observations, WG3: Dynamics, WG4: Data analysis, exploitation, interpretation)から構成されており、各WGから最新の検討状況が簡単に報告されました。Impact Modeling WGからは「DARTが衝突した結果はどうなっていると思うか?」というライブアンケートがあり、「Dimorphosは消失した!」という声が多く上がっていました。
図1:Heraサイエンス会合の様子
午後には、インダストリーやメディアを含む打上前イベントが開催されました。ESA Heraミッションの Ian Carnelli Project Managerからは、Falcon 9の準備は順調であり、天候以外は全て準備ができているとの報告がありました。そのほか、2005年から2007年にESAによって検討された小天体探査計画Don Quijoteや、AIDA計画として米国で実施されたDARTの成果、キューブサット開発チームからの報告がありました。特に印象的だったのは、インダストリーがサイエンスとは最初は理解できなかったが、コミュニケーションを重ねて相互理解を深め、良いチームになっていったという話です。前日にSpaceXから打ち上げ予定が発表されましたが、打上に適する可能性は15%とのアナウンスがありました。
図2:Hera Pre-Launch Briefing でのIan Project Manager(左)と参加者(右)
打上げ当日の朝は、横殴りの雨が降る天候でした。メキシコ湾で発生したハリケーンMiltonが週末にかけてフロリダ半島に接近しています。ホテルからケネディ宇宙センターまで移動し、セキュリティゲートを通過後にバスに乗って、バナナクリーク観覧場に到着しました。打上2時間前は小雨が降っていたため、参加者は併設されたサターンV展示施設に入り、1960年代に実施されたサターンVとアポロ宇宙船の展示を見学していました。すると、次第に空が明るくなり、雨や風も小康状態になってきました。Hera-JAPANメンバーの間でも、打上に向けて期待が膨らできました。
図3:(左)打上前は横殴りの雨と風(右)打上1時間前には天候が回復しました
日本時間の深夜に生配信されたISAS相模原チャンネルでの打上ライブ中継には、現地からZoomで参加して現場の状況を伝えました。観覧場では、打上の解説員と巨大スクリーンによる解説が行われ、SpaceX社のYoutube中継が表示されました。
今回のFalcon 9打上はPad 40から行われました。私たちがいたバナナクリーク観覧所からは約10kmの距離があり、肉眼では高さ70mのFalcon 9が米粒ほどにしか見えませんでした。Youtubeでのカウントダウンが進む中、私は手持ちの双眼鏡でFalcon 9を見ていたところ、カウントダウンが10秒前と聞こえた瞬間、白い煙がロケットの根本に上がりました。ロケットは、そのまままっすぐと上昇し、30秒ほどで雲の中に吸い込まれていきました。その後、ゆっくりとロケットからの轟音が会場全体に響き渡り、2分ほど続きました。SpaceXのYoutube中継からはMaxQ、MECOの確認がなされ、会場は歓喜に包まれました。
図4:上昇するFalcon 9ロケット(スクリーン左の輝点)
打上後、Heraサイエンスチームはそれぞれに抱き合い、これまでの苦労をねぎらいあっていました。岡田チーム長は機器PIとして打上を祝い、我々も様々な海外研究者と喜びを分かち合いました。ISAS相模原チャンネルの打上ライブ中継にて打上直後の様子と今後の抱負を伝えました。
図5:打上げ後の様子
打上げ後のパーティでは、KSCのAtlantis展示場でパーティが開催されました。パーティでは打上までのESA Heraの開発の様子がスライドショーで投影されました。最後に、Ian Carnelli Project Managerからは、サイエンス、インダストリー、宇宙機関、サプライヤーなど、ミッションに関わった全ての方に感謝が述べられました。ミッションを成功に導くには、自分の専門ではない人々とコミュニケーションして相互理解を深め、チームを同じ方向に向かわせることが大事だということが伝わってきました。プラネタリーディフェンスと国際協力を引き続き進めていきたいと思います。
図6:Post-launch partyの様子。
2024年10月9日
Hera-JAPAN 嶌生有理