About DART

NASAのDARTミッションは、John Hopkins University/Applied Physics Lab が主導する、 世界初のフルスケールのプラネタリ・ディフェンスミッションです。このミッションは、2016年に設立されたNASA Planetary Defense Coordination Office (PDCO) が直接指導しています。DART探査機は、2021年11月24日にFalcon 9ロケットによって打ち上げられ、2022年9月26日 23:15 UTC (日本時間9月27日 8:14 JST)に小惑星Didymosの衛星Dimorphosに衝突しました。

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図1:DART探査機のイメージ (Credit: NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)

DARTの主目的は、小惑星に探査機を衝突させ、探査機衝突による小惑星の軌道変更を実証することです。Dimorphosの公転進行方向前方からDART探査機が衝突することで、Dimorphosの公転速度が減少し、公転周期が減少します。この公転周期の変化を地上望遠鏡で観測することで、衝突によるDimorphosの速度変化(軌道変更量)を実測します。

衝突による軌道変更量は、運動量輸送強化効率Betaによって定量化されます。低速度衝突(付着合体)の場合、Beta=1となります。一方、超高速度衝突の場合、高速度の衝突破片(エジェクタ)が放出されるため、Beta>1となります。Betaは空隙率などの標的物性に依存するため、将来の実応用に備えて、小惑星で実測することが重要となります。なお、DART探査機(質量〜600 kg、速度〜6 km/s)の運動エネルギーは、はやぶさ2搭載小型衝突装置SCI(質量2 kg、速度2 km/s)の約2700倍です。DART衝突によって、Dimorphosの公転周期は11.9時間から数分短くなると予想されています。

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図2:DARTミッションの概要 (Credit:NASA/Johns Hopkins APL/Steve Gribben)

DART探査機は、光学航法カメラDRACOと自律航法システムSMART Navを用いて、自律的に誘導・航法・制御(GNC)を行ってDimorphosに衝突します。SMART Navは衝突の4時間前に開始され、衝突の2分前まで誘導を続けます。衝突の直前まで、DRACOは衝突前のDidymosとDimorphosの地形情報を地球に送信します。

衝突直後の様子は、衝突の15日前にDART探査機から分離されるイタリアのASI/LICIACubeが観測します。LICIACubeは、DART探査機の後方を飛行し、衝突直後のエジェクタプルーム、小惑星最接近時(衝突165秒後)のDidymos系の詳細地形、および通過後の非衝突半球の地形を観測します。

DART探査機が形成するクレータの詳細な観測は、5年後の2027年にESAのHera探査機が実施する予定です。どのような新鮮なクレータができているのか、Hera搭載の熱赤外カメラTIRで観測することが楽しみです!

Hera JAPAN  嶌生有理
2022/09/12