ミッション概要
Hera(二重小惑星探査計画)は、ESA(欧州宇宙機関)が実施するS型小惑星ディディモスとその衛星ディモルフォスにランデブーする探査ミッションです。
AIDA(Asteroid Impact &Deflection Assessment)計画は、このESAのHeraと、 NASA(米航空宇宙局)のDART(Double Asteroid Redirection Test)とが連携して行う国際共同のプラネタリ・ディフェンスミッションとなります。
先行するDARTが2021年11月24日に打ち上げられ、2022年9月27日(日本時間)に秒速約6kmで衛星ディモルフォスに衝突しました。その衝突の様子は事前に分離した子機から撮像され(参照:トピックス/祝! DARTミッション完了! https://hera.isas.jaxa.jp/wp-hera/3479/)、地上からの観測では、ディディモスの周りを回る公転周期が、およそ32分も大幅に縮められた事が確認されました。
Heraは2024年10月7日に打ち上げられ、2026年12月に到着した後、ディディモスとディモルフォスの両小惑星の探査を開始する予定です。
特にDARTの衝突の影響による軌道や自転の状態や、DARTによる衝突クレータの形や大きさを詳しく調べます。さらに標的である小惑星の物性や物質を半年かけて詳細に観測します。
日本からはTIRIによる熱撮像によって、惑星科学とプラネタリ・ディフェンスの両面で、特にDidymos連星系の物性と形成過程の理解に大きく貢献していきます。
図1|AIDA計画
ミッションタイムライン
● NASAの衝突機「DART」が2021年11月24日に打ち上げられ、小惑星Didymos (S型、D~780m)の衛星Dimorphos(D~160m、P~11.9Hr)に2022年9月26日 23:15 UTC (日本時間9月27日 8:15 JST)に秒速約6kmで衝突しました。
● DART搭載のCubeSat「LICIACube」と地上観測によって、衝突時の現象と衝突後の軌道変化が調査され、公転周期がおよそ32分縮められた事が確認されました。
● ESAの探査機「Hera」は2024年10月7日に打ち上げられ、2025年3月12日には火星スイングバイが実施され、熱赤外線カメラTIRIのほか、可視カメラ(AFC)、可視近赤外分光カメラ(HyperScout-H)の3台の搭載カメラによる火星および衛星Deimos、Phobosの観測が行われました。
●その後2026年12月にDidymosにランデブーし、Didymosとその衛星を高度30kmから2km以下までの高度で約半年間にわたって、DARTの衝突で形成された衝突痕の詳細観測、衛星の軌道詳細観測、および両小惑星のその場観測を行います。
● さらに、CubeSat 2機、「Juventas」、「Milani」による接近観測も実施します。


何故、Heraという名称なのか
Heraは、ギリシャ神話に登場する「結婚の女神」の名前です。NASAのDARTと連携して行う、国際共同のプラネタリ・ディフェンス計画であることから名付けられました。
余談ですが神話の中で、天の川(Milky Way)はこのHeraの母乳が流れ出て作られたとされています。
プラネタリ・ディフェンスとは
地球の近くを通過する軌道をもつ「地球接近小惑星」が、これまでに27000個以上も発見されています。地球接近小惑星は、近い将来に地球と衝突する可能性があり、地球の生命や文明社会への潜在的な脅威です。メキシコ・ユカタン半島にある直径160kmのチチュルブ・クレータは、直径10kmの小天体が6600万年前に衝突した痕跡と考えられ、恐竜など多くの生命が絶滅した白亜紀末の大絶滅を引きおこした有力な原因とされています。しかも地球上で発見されている隕石衝突クレータのなかで3番目の大きさであり、地球史上では大絶滅を起すような小惑星衝突が何度も起きていることを意味します。
小惑星は小さいものほど数が多く、例えば直径50m程度の小惑星であれば100~1000年に1回の頻度で地球に衝突します。1908年にシベリア・ツングースカで、直径60~100mの隕石が上空で大爆発をおこし、爆風によって東京都とほぼ同じ面積の2000平方キロメートル以上の広大な範囲のタイガの森林が薙ぎ倒されました。やや規模は小さいものの、2013年にロシア・チェリャビンスク近郊に落ちた推定直径17mの隕石が大気を通過中に発生した爆風によって、怪我人が約1500名、家屋損壊が約4500棟にのぼる災害が起きました。大都市を直撃していたら、その被害は計り知れません。このように甚大な被害をもったらす小惑星の衝突に対して、地震や津波などの自然災害と同様に防災対策が必要です。地上からの観測によって、ある小惑星が100年以内に地球に衝突する可能性が高いことが判明した場合、その軌道を逸らして地球衝突を回避することによって、その脅威と発生し得る被害を、惑星科学の知識と宇宙工学の技術によって未然に防ぐという宇宙防災活動が「プラネタリ・ディフェンス」です。
現在分かっている限りでは、今後100年以内に地球に衝突する可能性のある天体は直径100m以下の小型のものばかりなので、数mの大きさの探査機を高速で衝突させることによって、小惑星の軌道をわずかに変えることができます。その小さな軌道修正でも、地球に衝突する時期が数万年以降となれば、当面の脅威は回避することができます。但し、100m以下の小さな天体に確実に衝突させることは容易ではなく、技術実証が必要です。また、衝突によって生じる軌道変化量は小惑星の密度や硬さによって異なりますが、小型の小惑星の素性についてはよく分かっていません。


