惑星の形成・進化の過程の理解に迫る

Heraによる探査は技術実証としてだけでなく、惑星の形成や進化の過程の解明を進めるうえでも唯一無二の貴重な機会となります。

小惑星探査は日本が世界を先導する得意分野です。探査機には、「はやぶさ2」で実績のある熱赤外カメラを搭載し、衝突現象の科学や小惑星の地質学、ダイナミクス、熱物性などの科学の研究で大いに貢献します。

Heraが目指すもの

大きさの異なる小惑星、二重小惑星ディディモス(直径約780m)とその衛星ディモルフォス(直径約160m)との比較や、「はやぶさ2」によるC型小惑星リュウグウやNASAのオシリス・レックスによるB型小惑星ベンヌとS型小惑星ディディモスの比較をし、天体サイズやスペクトル型の違いによる小惑星の物性の違いを初めて確認します。

また、二重小惑星における力学進化の特徴や、小型の小惑星における衝突現象の理解の進展など新たな展開が期待され、惑星の形成や進化の謎を解明する糸口となると期待しています。

主にESAが実施する新技術では、CubeSatsによる小型・自律通信リンク観測や、熱赤外を用いた自律光学画像航法も検討されています。

熱赤外カメラ

TIRI (Thermal InfraRed Imager)

熱撮像で、何が解るのか?

天体を熱撮像する事で、表層物理状態の情報が得られます。

例えば、始原天体の表層物理状態(空隙率など)が分かれば、天体衝突時の強度や衝撃伝搬・破壊現象などの解明も可能となるのです。

「はやぶさ2」に搭載した、熱赤外線カメラ「TIR」による観測では、全球熱撮像をすることによって温度日変化が得られ、着陸地点の選定に大変役立ちました。
熱慣性マップでは、C型小惑星リュウグウの表層が低熱慣性(おそらく高空隙)な岩塊で覆われることを発見しました。 [Okada+2020, Nature; Shimaki+2020, Icarus]

また可視光線では見えない夜側の撮像をすることで、 完全な形状モデルの作成にも至りました。

局所熱撮像では、個別の岩片と岩塊の熱物性が解り、低温・高温のスポットが発見され [Okada+, Nature 2020; Sakatani+, Nature Astron. 2021]、また表層の特徴的な地形の情報も得らることから、10cm大のターゲットマーカも検知しました。

今回「Hera」に搭載する「TIRI」は、この「TIR」より更に感度・解像度を向上させ、多波長分光も追加して、惑星科学とプラネタリ・ディフェンスの両面で、特にDidymos連星系の物性と形成過程の理解に大きく貢献します。

TIRIのチャレンジ

感度・解像度の向上

赤外線カメラの感度・解像度の向上で、より詳しい熱物性情報を獲得し、表層物理状態を明らかにしていきます。 更にHeraでは、熱赤外画像航法の導入も検討されています。

多色分光撮像(6バンド)の導入

多色分光撮像(6バンド)の導入により、組成情報を獲得します。これにより場所による差異、Didymos とDimorphos、DART 衝突によるクレータの内部と外部、イジェクタとの比較、平坦地(堆積物)と岩塊との違いなどをより一層明確にしていきます。

TIRIの目的

惑星科学の目的

S型小惑星の熱物性の調査

100m級小惑星の熱物性の調査と二重小惑星の形成過程の解明

連星系のダイナミクスと熱的影響(BYORP)の調査

DART衝突実験の痕跡と影響、スケーリング則の調査

宇宙風化の表層粒径の影響の調査

プラネタリ・ディフェンスの目的

DART標的小惑星の空隙率や強度の調査

連星系のダイナミクスと衝突による異常な状態の調査

DART衝突クレータの形状・寸法と物質の調査

DART衝突イジェクタのDidymosへの堆積状態の調査

熱赤外画像を用いた光学自立航法への貢献

熱赤外撮像は、惑星探査に有用な手段です!

その他のミッション機器

AFC (Asteroid Framing Camera)

可視カメラ




HS-H
(HyperScout-H)

多色カメラ




PALT (Planetary ALTimeter)

レーザ高度計




RADIOSCIENCE

電波科学




Juventas(CubeSat)

子機




Milani(CubeSat)

子機




Mission Payloads (All in +Z directions)

Z軸から見たミッション機器の配置 

Spacecraft configuration

探査機の構成